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凄い奴


10数年前のこと。肺癌になった同級生の要望で「船釣り」に毎月付き合って1年余が過ぎた。「俺、医者から、余命

2か月と言われた!」と彼から電話があった。

「分かった!今度は何をしたい?」

「大学時代の仲間3名と最後の晩餐会がしたい。」とのことで小料理屋に集まった。

会の最初の切り出しの言葉に困っていたら、彼から話が始まった。

仲間3人との出会いから始まり、その後の3人との40数年間の付き合いを、かみしめる

ように話し始めた。

仲間の3人も「そうだった、あの時、そんなことがあった、あった!」と。

彼の熱弁が2時間程続き「死を目の当たりし不安であったが、全てをさらけ出すことができた。これで安心して逝ける。ありがとう!」との締めで最後の晩餐会は終わった。

それから3か月後、「おい、癌が縮小し、医者がびっくりしたぞ!」と明るい声の電話が

あった。

そこから1年後の「1月第4土曜日の定例同級会」に彼が突然現れた時の「皆の驚き」は

今もはっきり覚えている。

彼は余命ではなく残命と言っていたが、2か月が2年間に伸び、親不孝にはならず、

両親を見送ってから、逝くことができたのである。

もうひとつ付け加えるが、彼も次の彼もどちらもタバコは一切吸っていない人である。


もうひとりの彼を紹介。会社の先輩の同級生であるが20数年来の付き合いであえて

「凄い奴」と呼ばせて頂く。

彼の趣味は、「ゴルフ」である。

10年前80歳で胃癌が見つかり「胃癌の切除」をすすんで希望。しかし接合部分の癒着ができたため再度手術。その後は順調であったが、胃が半分になったため、ゴルフの時は

チーズとバナナを何度も口に入れてのプレイである。

しかも私より小柄で年齢も11歳年上なのに、飛距離もスコアも上である。

術後も、先輩との3人で3か月毎、ゴルフ&麻雀を楽しんでいたが、コロナ禍の3年間中止を余儀なくされた。

今年8月、彼が肺癌になったと先輩から連絡があった。

9月半ばに彼から「長い間色々遊んでくれてありがとう!」とお別れの電話があった。

10月になって先輩から「最後のゴルフをしたいと彼から言ってきた。10月末、三重県

一志嬉野のゴルフ場でやるから!」と。

彼を乗っけた往きの車中での1時間半の会話。

「75歳以上の放射線療法は経験ないという医者に照射をお願いしたよ!」

「凄いね!ところでアプローチとパターは体力に関係ないから、頑張ってね!」と私。

「三重県で熊が出たとのニュースはないので心配はない。猿や狸はいると思うが、

キツネは見たことがないね!」と彼。とても死を目前にした人の会話とは思えなく明るい。

プレイが始まった。

彼はドライバー快調でポンポン飛び95のスコア。私と先輩はボールの頭をたたき100

たたきの苦戦。結果は90歳の放射線治療後の病人の勝ち。

車中の慰めは恥となった。そして、何と!見たことがないと言っていたキツネが何故か

16番ホールで現れた。彼は、持っていたチーズをやると美味しそうに食べ、暫く彼についてきた。

「キツネは神の使いであり、何か良いことがあるはずだ!それよりも、ゴルフで負けた

まま、アンタがあの世に逝ってもらっては困る。来年春、又、勝負しよう!」と

先輩がのたまう!

彼の明るい雰囲気は私の同級生と同じだと感じ、来年春に必ずゴルフが出来ると、

私は確信した。!


共に、凄い奴だから!

 
 
 

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