真夜中の会話
- 加藤 誓(ちかい)
- 1 日前
- 読了時間: 3分

真夜中に目が覚めトイレに行った時、奥の部屋の片隅で話し 声が聞こえた。
「私の主人は、本当に困った人よ!何処に行った?何処に 隠れた?としょっちゅう私を探すの。私の居場所は、この家 の中しかないし、それもリビングのソファの前と食卓のテーブル の下と、風呂場の入り口、ベッドの辺りかパソコンの下と玄関先 しか、スリッパの私はいないのに!」
「あんたは、一時のことで、いずれ見つかるから大丈夫、心配ない!俺様が隠れでも したら、あのおいぼれの主人、顔色が変わり、ズボンやジャケットのポケットの中を探し、 此処にも無い、無いとパニック状態になり、俺様が行ったこともない背広やハンドバッグ の中まで探す。」
「何しろ俺様の背中には、見付けた方は、TELしてほしい、と書いてある位大切なもの らしい。あほな主人、さっき行った喫茶店かもしれないと、お店に電話し無いと言われ、 ますます興奮状態!いくつものカバンの中を探しまくっている。
俺様はそれを見ながらニタニタ。
俺様がいるのは、あんたの着替えたパジャマのポケット。さっき入れたばかりなのに! 何故気付かない!偉そうだが俺様は、どうしょうもない主人の手帳だけどな!」
「オホホ!ご主人様が一番心配なのが私ですよ。だって、いつもご主人様に寄り添って 居るのだから。 突然ベルが鳴るの!そしてご主人様のために、忙しく動かなくてはならないのよ。 それが毎日24時間の中の不定期時間労働なの!たまったものじゃない!でも、 ご主人様が私に言うの。お前は、女房以上に大切な愛人だ。お前が、そばにいないと不安 になると。
信じちゃいないけれど私、嬉しい。それを確認したくもあり、時々ご主人様を離 れ、
のんびり静かにひとり旅行もしたいと出掛けるの。」
サー大変。ご主人様が奥様に「おーい!彼女がいなくなった。大変だ!探してくれ。」 奥様が「又ですか!」部屋のあちこちを探すが見つからない。
とうとう奥様は、私の呼び出しの電話番号を掛けるが部屋からは着信音が聞こえない らしい。「この家の中にはいないわね。何処へいったのかしら!」
「夜の11時、最近認知機能低下のご主人様が、パジャマを着替えてマンションの4階 から降り、駐車場の車の中に居る私を見つけてくれたの。あんたは、何で此処にいるの? ひとりで寂しかったね!と嬉しげに私を撫ぜてくれたの。」
スリッパも手帳も、スマホの話に「さすが、あんたが一番!羨ましい!」と。
私は、トイレの水も流さず、静かに声のする部屋へ向かいそっとドアを開け、ライトを付 けた。会話が途絶えた。
部屋の片隅にあるステレオの上に、普段そこには置いたことがない手帳とスマホ、そし て何故かスリッパがあった。
そうだ思い出した。夕方にリビングのテーブル周りを掃除した時、そこにあった手帳や スマホ、スリッパがじゃまで、ステレオの上に置いたままだったことを。
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