飲食店のタッチパネル
- 加藤 誓(ちかい)
- 2023年6月28日
- 読了時間: 3分

友人の葬儀のため、津市に赴いた。早く着き過ぎたので、 大衆的な中華料理店で食事をとることにした。女性店員が 奥の方の一人席に私を案内した。
「これで注文下さい。」と、 タッチパネルを指さし直ぐに立ち去った。
小さなテーブルには ポットとコップ、紙のお手きと箸箱が置いてあった。
初めて 体験するシステムに戸惑いながら、パネルを見ると、餃子・チャーハン・ラーメン・ サービス定食・一品料理などの画面があった。ドリンクの所をタッチしノンアルコール ビールを押した。更に「数量1」→「注文確認」→「注文する」取り敢えずこれで OK。
次に食べ物であるが、今まではメニュー表を眺め美味しそうなものを選んでいたが、
パネルだとあちこちをタッチしないと食べたいものが見つからない。
面倒なので、サービス定食をタッチ。
A 定食は唐揚げ、B 定食はマーボー。A を押した。
ご飯の量の小を押した。 そして飲み物と同じく何回もタッチしやっと注文が終了した。
店内は、家族連れや、会社の仲間などで賑わっていたが、皆、タッチパネルに慣れて
いるのか、妙に店内は静かであった。そして運ばれてきた料理を黙々と食べ、去って いく。
突然「ねーちゃん!ビールくれ!」との声。女性店員が現れそのお客のパネルを タッチし黙ってまた、調理場に戻って行った。
私も運ばれた定食をただ、黙々と口に入れた。
店を出た時、そう言えば店内で私は一言も声を出していないことに気が付いた。
葬儀は家族葬で知り合いもなく、喪主の娘さんに自分の名前を言ったぐらいで 殆ど無言の1日であった。
それから2週後、最寄りの地下鉄駅近くのカレー店に入った。
やはり、タッチパネル システムであった。そして女性の店員さんが忙しく料理を運んではいるが、店内は 奇妙な静寂の空気が漂っていた。
その2週後、今度は、知り合いの3人で、久しぶりに回転ずし店に行った。
やはりタッチパネルシステムに変わっていた。
「何頼む!まぐろ?」タッチパネルの 1 ページから次々進めてやっとまぐろの所にたどり着いた。
「今度は何?鯛!」 またパネル画面をあちこち探し「はい!鯛 3 個!」
「今度は何、鉄火巻!」また 画面を移動。やっとたどり着く。
3 人別々の注文はとても無理。皆同じものを 3 個頼む。6 個頼んだら「5 個までです」と表示され受け付けてくれない。
寿司をゆっくり味わうどころでない。
タッチパネルに振り廻され、腕も疲れ、何故か 寿司を搔き込むように口に放り込むのだ。
「いらっしゃいませ!」「おまちどうさま!」 も、店員さんの笑顔、お客さんの笑顔もない。
飲食店のパッチパネルは合理化と称して、 人間を無口無表情のロボットにする機器のようである。
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